2010年07月23日

「誰かのため」生きてみる 鎌田實

 読売に「時代の証言者」という優れものの連載がある。それこそ名前を聞けば誰でも知っているような人物を取り上げ、その人を通して時代を振り返ることができるのだ。

 因みに、最近、登場した人物としては、王貞治ソフトバンク前監督が印象に残っている。

 現在、鎌田實諏訪中央病院名誉院長が登場している。関心のある人物のときは読んでいるが、恥ずかしながら、いつも欠かさず読んでいるわけではない。

 鎌田實医師については、「がんばらない」というコピーが名刺代わりについていて、終末期医療で著名な先生だから、興味はあった。

 連載に登場したことは知っていたが、実は読んでいなかった。詳しい経歴など知る由もなく、連載の6日目、全共闘世代であること、東大安田講堂事件のことが書いてあったので、夢中で読んでしまった。

 当時、東京医科歯科大学の学生だったが、大学病院では研究中心で患者が軽視されていると先輩から指摘され、医学部やこの国、社会を本当に変えられるのか、より近くで見てみたいと、1969年1月18日の機動隊との攻防戦で、東大安田講堂が落城したとき、構内にいたのだそうな。

 安田講堂内には東大全共闘の安田講堂防衛隊長今井澄元諏訪中央病院院長がいたというのだから、人生はわからないものだ。

 鎌田医師で特筆すべきは当時、年間150本は映画を観ていたということ。トイレの臭いのする古い映画館の壊れかかったイスに沈み込み、人生や生きることの意味をアオクサク考える闘争の中での青春だったという。

 全共闘時代に流行った言葉に「自己否定」があるが、自己否定など簡単にできるわけがない。99%は自分のため、家族のために生きている。でも、残りの1%だけでも誰かのために生きてみたい。そして、みんなが1%誰かのために動き出せば、この世の中がちょっとあったかくなるんじゃないか。そう思っているとのこと。

 何とも、嬉しい話ではないか。

 こんなにすごい先生が自分の考えていることと同じことを考えていたとは、知名度が高いから、誰かのためという生き方を世間に広めてもらえれば、まだ日本は大丈夫かなとも思えるではないか。

 企業の経営者が1億円以上、最高8億円もの大金をもらい、当然だというような顔をしているゴーンならぬゴーマンな人間ばかりだったら、ちょっと辛すぎるが、少しは誰かのためになろうとしつつ死んでいった方が、楽にあの世に行けるとは思わないのだろうか。三途の川を渡るときはたしか渡し賃は六文だったはず。

 自分さえよければと金儲けに走っても、あの世に金を持っていけるわけではない。

 誰かのために少しでも役に立つ。感謝される。そういう生き方ができることを有難いと感謝するという生活も悪くないのではないだろうか。
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