月に一度の映画館行き、12月は『海の沈黙』を観たばかりであるが、染井為人の同名小説を原作に、藤井道人監督、横浜流星主演『正体』を観てきた。
10月、11月と行かれなかったので、その分として、師走で何かと忙しい時期であるが、冤罪がテーマだったから名張の毒ぶどう酒事件の再審開始請求を支援している立場上、観ないわけにはいかなかった。
一言で佳い映画でまだ観ていない人たちにお薦めしたい作品である。
買い求めたプログラムには「極上のサスペンスエンターテインメントが誕生」とあった。慢性的な睡眠不足で映画を鑑賞中にいつも居眠りが出てしまうが、最後まで飽きさせることがなかった。
一家殺人事件の現場にいたことから、被疑者として逮捕されてしまった少年が、逮捕後、一貫して無実を訴えるも、死刑判決を受け、拘置所で拘束されているとき自傷し、病院への移送中、脱走してしまう。
自分の無実を信じてくれる人を求めて、日本全国を彷徨する被疑者は、居ついた場所で関わる人々に見せる顔が異なり「正体不明」とみなされるも、人間としては佳い印象を与えて逃亡を続けるのだ。
事件現場で生き残り、錯乱中の母親の証言で彼が被疑者であることを確信する警視庁捜査1課の刑事は執拗に被疑者を追いかけるも、逃げ回る被疑者に次第に事件をもう一度見つめ直す気持ちになっていく。
しかし、上司の刑事部長は、真実の追求を求めるのではなく、少年が被疑者である方が少年法改正に都合がいいと少年を被疑者として断定してしまう。
物語はフィナーレまで書いてしまうと興趣を削ぐことになるので、この辺でやめておく。
主演の横浜流星という俳優は後期高齢者になってしまった自分から見ても、主役として姿が佳い。
その横浜流星の名前を始めて知ったのは、数年前、連れ合いの弟が都内で営む飲食店に何と彼が客としてやってきたというのだ。
自分は初めて耳にする名前だが、流星という芸名(後に本名だと知る)はインパクトがある名前だなと感心したが、所謂イケメンで爾来お店の自慢話で必ず登場することになる。
客は客でも、石ちゃんこと石塚という太めのタレントと一緒で仕事だったとか。
当時は、全く興味がなかったので、詳しいことは聞いたような気がするが、覚えていない。
読売が毎週金曜日の夕刊に映画評を掲載しているが、その12月6日に『正体』を取り上げ、情けないことだが初めて、この映画のことを知ったというわけだ。
そこに、袴田事件で無罪が確定し、福井の中学生殺人事件では再審開始請求が認められたというタイミングでの公開は偶然とは思えないと書いてあった。
さらに、映画で殺人犯として死刑判決を言い渡された被告が逃亡中に使った偽名が過去の冤罪事件から借用しているとのことで、映画で使われていた那須、桜井、そして久間という名前で思い当たるのは、那須とは弘前大学教授夫人殺害事件の那須隆さん。桜井とは布川事件の桜井昌司さん。久間とは飯塚事件の久間三千年さんで、久間さんは死刑が執行されている。
昨晩のNHKクローズアップ現代で、贋作のことを取り上げていたが、芸術作品と贋作、価値観をテーマにした『海と沈黙』を観ていたから、贋作でカネを設けたという人物に取材している場面で、映画のことを思い浮かべた。
『正体』では無実を訴えながらも逮捕され、死刑判決を受けた主人公の無実を訴える女性記者の弁護士の父親がやはり、電車内の痴漢の犯人にされて冤罪を晴らそうとすることが描かれていたくらい、冤罪事件は多いということで、恐怖すら感じた。
冤罪事件を他人事だと思ってはならない。
2024年12月12日
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