2024年08月17日

終わらない戦争の始まり 満州開戦の出発点

 戦後79年「戦争の末路」というタイトルで、読売が1面、2面、6面で連載中の2回目は、満州を舞台にした『地図と拳』で直木賞を受賞した作家小川哲さん(37)と戦争の全体像を出発点から見直すということである。
 満州を舞台にいした小説を書くために調べた結果、満州が開戦の出発点だという認識だということで、満州に関心を持ってきた自分の立場と近いことがわかった。

 日本は日露戦争(1904〜05年)で、20万人以上の戦死傷者を出した結果、南満州で鉄道の運営権などを獲得したものの賠償金は得られなかった。
 世論の突き上げを受けた政府は、満州の価値を高めるため、国策で南満州鉄道をつくり、資本を投下して都市基盤を整備した。理想郷を意味する「王道楽土」という標語を掲げ、満蒙開拓団を入植させた。
 この過程で陸軍は31年に満州事変を起こし、32年には傀儡国家・満州国を建設する。
 ところが、国際社会はこの動きを容認せず、日本は国際連盟を脱退してしまう。
 満州は石炭や鉄鉱石は産出するが、石油は出なかったため、日本は石油を求めて東南アジアを狙い、米国との対立が決定的になる。

 満州に投じた価値を守るため、国際的に孤立し、太平洋戦争に突入していった。というのが小川さんの解釈だ。
 戦争を始めるには、国民を納得させる強力な論理が必要で、それは今も変わらない。
 人々を戦争に突き動かすのは、土地を巡る情念が大きい。
 以上が、読売の紙面1面から2面にかけての小川さんの要旨である。


 15年戦争、大東亜戦争、太平洋戦争、第二次世界大戦そして先の大戦、アジア太平洋戦争と呼び名も戦争に対する立ち位置で決まる。
 
 小川哲さんは自分の子どもくらいの年齢だが、流石に作家だけあってよく勉強している。
 満州という土地を巡る情念が火種となって始まったのが、アジア太平洋戦争だという小川さんの考えと自分の考えは近い。

 五味川純平『人間の條件』(三一書房)を原作としたTVドラマ。1962年10月に放送された。
 無論、映画化もされている。
 小説の主人公梶は平和を愛するがゆえに戦争に疑問を抱く。妻を愛する心優しき梶は、ために召集免除という誘いで満州の鉱山での仕事に応募するのだ。
 梶を演じたのが若き日の加藤剛だった。
 思春期という多感な時で、中学1年生だったが、大きな影響を受けた。

 アジア太平洋戦争に関心を持ち始めるきっかけは、ドラマの主人公梶だった。
 歴史をしっかり勉強して、満州こそ、開戦の出発点だという小川さんとはいささか異なるが、同じ作家の五味川純平さんの視点に大いに影響を受けた。

 梶が日本から満洲に渡り、鉱山で働くも、やがて、召集免除の約束は違えられ、軍隊に召集されてしまう。
 軍隊に召集されたとはいうものの、戦場は満州だった。
 1945年8月9日未明、ソ連の満州侵攻、その後、8月15日の武装解除でシベリアに抑留ということになるが、奥地ではなく、比較的満州に近い収容所で強制労働させられる。

 こうなると戦争といえば、満州が舞台となっているわけで、そういう意味で満州こそ、開戦の出発点であることがよく理解できるのである。

 50代半ばを目前に、持病の炎症性腸疾患クローン病治療を理由に退職し、語り継ぐ戦争、戦没者慰霊のための行脚を始めたのも愛する連れ合い三千子に再び逢うことが叶わなかった梶への鎮魂の気持ちがあったのではないか。

 語り継ぐ戦争でわかったことは、日中戦争を拡大させ、日米戦争に展開させたことで、国力をはるかに越えた戦いに軍人たちは持ち込んでしまったことである。

 日本の開戦といえば、真珠湾攻撃での日米戦争が目立つが、実はすでに日本は満州、つまり中国大陸で戦争を始めていて、満州での権益を守ろうとしたことも事実であるが、如何に、石油が欲しいからと言って米国と戦争をするような国力はなかったのである。

 満州事件が起きた1931年を起点に15年戦争と呼ぶのは、ここから戦争が始まったとみる見方であろう。

 開戦の理由として、日本は国土が狭かったことから、石炭や鉄鉱石、あわよくば石油などが手に入る領土を手に入れたかったから、満州に目をつけた。

 満蒙開拓団の人たちは、日本では貧しい農家の二男や三男などで日本には居場所がなかったという見方もできなくはない。

 政府や軍人からみれば領土、満蒙開拓団の募集に応じた人たちは、自分の土地、畑が欲しかったというのが開戦の理由とし一番説得力があるのではないか。

 少しなりとも、土地を持っている立場から見れば、土地に対する情念ということもよく理解できるのだ。
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