2022年03月19日

『襤褸』

 木野工『襤褸』(新潮社)を読んだので書いておく。
 書名はぼろではなく、らんるとルビがふられている。
 1972年に発売されたときの定価が600円で、アマゾンで手に入れてもらった経費も含め、5000円で手に入れたことはすでに書いている。

 1932(昭和7)年の5・15事件後、軍部が台頭する時代を背景に、北海道は旭川の石狩川の改修、旭橋の建設現場と近くに駐屯する第七師団の兵隊たちの欲望のはけ口とカネを巻き上げることを目的にできた旭川中島遊廓を舞台に貧困のため、雄冬の貧しいい漁村から17歳で女郎屋に売られてきた娘花が18歳になってほどなく性奴隷として酷使され、結核で死ぬまでが描かれている。

 花の母親も性奴隷だったが、足抜きというか逃げ出し、男と3人で雄冬の浜辺の掘っ建て小屋に隠れ住んでいたが、貧しさから娘の花を女衒に売り、そのカネを亭主に残し、自らも再び苦界に身を沈める。

 女衒に売られた花が旭川中島遊廓でも女郎いじめで悪名高き楼主夫妻に買われたことで、運命が決まったと言っても過言ではない。
 
 売春は男と女の歴史程大昔からあったが、公娼制度は江戸時代にはすでに日本全国にあったようで、明治以降、官憲に守られた遊廓の楼主の非人道的、鬼畜の所業は売春防止法ができるまで続く。

 語り継ぐ戦争、戦没者慰霊のための行脚で日本全国を周る折、遊女、女郎と呼ばれし女たちの供養もしてきた立場としては、人身売買に反対するため、関係の書物を買い求め、読んできたので、性奴隷として楼主から搾取され、徹底的に苛め抜かれて、死ねば、寺に投げ捨てられた女たちの墓があれば、手を合わせないではいられない。

 本書は小説であり、著者は特定のモデルはいないとしているが、それでも、ヒロインの花は苦界と呼ばれた性奴隷、女郎の世界では普遍的な存在として、多かれ少なかれ、ほとんどの女たちが花とさほど変わらない人生を生きてきたと、彼女たちへの鎮魂の気持ちを抱いていだのではなかろうか。

 本書は女郎の気の毒な人生を描いているばかりではなく、ヒロインが生まれた時代、性奴隷として売られた旭川中島遊廓が設置された地域を背景にしているだけに、旭川の街の歴史を勉強するときに大いに参考になるだろう。

 というのは、著者が旭川に生まれ育ち、北海道タイムスの記者だったから、旭川中島遊廓で性奴隷として酷使され、梅毒や肺結核で死んで逝った女たちがいたことを忘れないために、旭川の街の歴史の汚点として書き残そうとしたのではないか。

 佐渡金山の水替え人足からカネを巻き上げるためにつくられた水金遊廓で性奴隷として、酷使された女郎が水替え人足と心中する話、津村節子『海鳴』(講談社文庫)を若い頃読んで、とうとう、2017年8月に水金遊廓跡地を訪れ、小説とは異なるが、実際に心中した女郎の墓に行き手を合わせてきたことがある。

 旭川はいじめで女子中学生が集団で性的暴行をされたり、ベンチで凍死させられるなど、旭川中島遊廓の楼主の末裔がやっているのかと思えるような非道がまかり通っている。

 街のイメージとしては、自分にとってよろしくないが、18歳になってほどなく殺されたも同然の死に方をしたヒロイン花が普遍的な存在だとするなら、もう一度訪ね、墓など見つかれば、お参りしてやりたい。
posted by 遥か at 11:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 貧困問題
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