2025年03月11日

歴史の教訓 羅針盤に

 小学生の頃から我が家で購読していた読売新聞を読んでいた。
 毎日、読んでいたのは人生案内である。スポーツの紙面も必ず読んでいた。長嶋、王という偉大なスーパースターの影響。さらには、NHKラジオで中継されていた正月の箱根駅伝、読売が主催していた青森〜東京間、東京〜大阪間の駅伝の記事が大好きだった。
 詳しいことはわからないが、新聞は経済部、政治部、社会部と担当が分かれているみたいで、読売の政治部は政府自民党の広報紙みたいで全く信用できないし、読む気もしないが、社会部は語り継ぐ戦争を筆頭にまじめに取り組む記事があってそれなりに評価してきた。

 近年の優れた連載として、「時代の証言者」があり、登場する証言者によっては読んだり、読まなかったりという情けない読者であるが、語り継ぐ戦争をテーマに発信している立場から、大いに参考になる記事であることは間違いない。

 「国民の年表を書く」というタイトルで連載されたノンフィクション作家 保坂正康さんの 36最終回が3月7日にあった。
 「歴史の教訓 羅針盤に」という見出しで、実に勉強になることを教えて頂いた。
 感謝の気持ちを込めて書いておきたい。

 「『平和憲法』という言葉を使わない。戦争放棄の条文をお守りにすれば、平和になれるわけではない。それは「皇軍史」をうのみにした精神構造と変わらない。
 ウクライナを侵略したロシアのプーチンが、現代の核抑止論の限界を実証した。唯一の被爆国として主導的に動くべきではないか。
 甚大な犠牲と引き換えに手にした『民主主義』も揺らいでいる。米国トランプ政権の2期目、日本の選挙制度の混乱を見ても、大きな転換点に来ている。
 昭和100年の歴史は、為政者まかせにすることの危うさも教えている。
 押し寄せる困難を克服できるかは、一人ひとりの主体的で未来を見据えた努力にかかっている。もし迷ったら歴史の教訓を辿り、羅針盤としてほしい。きっと頼りになる。」

 以上が最終回のメッセージで一番心を動かされた部分である。


 語り継ぐ戦争をメインに犯罪被害者支援を訴えてきた立場から、歴史探偵と称された半藤一利さんと共に昭和史をわかりやすく解説してくれた保坂正康さん。
 TVで昭和史の解説をしてくれたことで、身近に存在になり、「時代の証言者」を読んでさらに親しみを持った。
 半藤一利『昭和史1926〜1945』(平凡社文庫)を買い求めて読んでいるので、昭和史を少しは勉強してきたが、その半藤一利さんが退場されてしまった今、保坂さんが自分にとって昭和史の一番の師匠となっている。

 だから、「歴史の教訓 羅針盤に」という保坂さんの言葉を参考にさせてもらうつもりだ。
 特に、A級戦犯として東京裁判で連合国から裁かれた東条英機の読書歴を辿った保坂さんは、軍事ばかりで文学や哲学に触れた形跡は見当たらなかった。
 「20世紀の戦争は捕虜の扱いが決まっていたのに『生きて虜囚の辱めを受けず』という東条の戦陣訓に従い、日本軍は玉砕を重ねた。命を軽んじる指導者の下で自殺のような戦争をした」と指摘されていたことに驚いた。

 このことは語り継ぐ戦争で自分が何回となく発信してきたことと同じだったからである。
 他人の命を粗末にし、玉砕を命じておきながら、命令した側は裁判で死刑宣告されたのだから、軍人としてみっともない。
 少なくとも自決した軍人たちがいたことを考えれば、己を恥じるべきだと戦没した人たち、命を粗末にさせられた特攻隊員ならきっとそう思うのではないか。

 軍人といえども、文学、哲学などの一般教養を深め、人間性を磨くことの大事さを指摘された保坂さんのバランス感覚に学ぶところは少なくない。

 昭和100年、アジア太平洋戦争、東日本大震災、原発事故、阪神大震災、地下鉄サリン事件と戦争、災害、犯罪、そして感染症の新型コロナと困難が押し寄せてくる日本。
 確かに羅針盤が欲しくなる。ために、歴史の教訓を辿る必要がある。同感である。