語り継ぐ戦争をメインに犯罪被害者支援など気づいたことを折々書き続けてきたのは、「自由のため」である。
その自由を奪われ、国から出ることも許されないまるで女郎屋国家である北朝鮮に生まれてしまった女性が脱北し、韓国で巡り合った日本人男性と一緒になり千葉市で日本ではめったに味わえない平壌冷麺店を営む物語について書いておく。
「命がけのレシピ提供「感動の毎日」という見出しで、2月2日の読売「顔Sunday」で紹介されていたのは文蓮姫さん(33)。
文さんのことをどうしても書きたくなったのは、中朝国境の鴨緑江を一人で泳いで渡ったという脱北劇のことを知ったからだ。脱北ブローカーがくれた中国製の携帯電話は電波がキャッチできず、韓国行きを手引きしてくれる韓国人宣教師に連絡できなかった。
山道を飲まず食わずで48時間歩いた。のどの渇きに耐えられず、死を覚悟して鴨緑江まで戻り、川の水をがぶ飲みした。通りがかりの中国人に助けられ、ようやく宣教師に会えた。
バスと電車、車を乗り継いで中国大陸を南下し、ラオスの韓国大使館にたどり着く。脱北から1か月が過ぎていた。
ソウルでは、平常冷麺専門店を開く。北朝鮮で食堂を営んだ祖母と母を持つ自分の強みを活かした。
肉の仕入れで助言を求めた焼き肉店で働いていた勝又成さん(35)と知り合い、結婚して勝又さんの故郷千葉市稲毛区に店ともども転居した。
文さんのことですぐに思い出したのは、2023年公開の脱北を映像化してくれたドキュメンタリー作品。マドレーヌ・ギャヴィン監督『ビヨンド・ユートピア脱北』である。
韓国の宣教師で人権活動家キム・ソンウンの活動をメインに描かれている。2000年以降に1000人以上の 脱北者 を支援してきた キム・ソンウンは女郎屋国家北朝鮮から所謂足抜けをさせた廓清運動の救世軍みたいで大いに称賛される。
なぜ、ノーベル平和賞をもらえないのか理解できない。
朝鮮半島は1950年の朝鮮戦争で38度線で分断されてしまい、金一族に支配された北朝鮮が誕生し、楼主の金一族は独裁政権を3代続け、廓ならぬ国境から逃げようとするなら射殺されてしまうという未曽有の恐怖国家を築いてしまった。
女衒などから人身売買で買い入れた女性が逃げ出せないように、警察とグルになった楼主が目を光らせていた廓にそっくりである。
現に、吉原ではお歯黒どぶでエリアを囲っていたし、大坂で今も紅灯の巷として知られる飛田新地では嘆きの壁で囲われていた。
廃娼運動は明治初期から1956(昭和31)年の売春防止法の制定まで続き、これを手助けしたのがキリスト教の救世軍や人権活動家たちである。
金一族に奪われた自由を取り戻そうと北朝鮮から脱北する人を手助けしているのがキリスト教の宣教師や人権活動家で、人身売買で自由を奪われた女性たちが自由への脱出をする手助けをしたのがキリスト教の救世軍や人権活動家だというのは単なる偶然とは思えない。
一人でできることではないので、大勢の支援者の力、協力があってこそのことであるにしてもだ。
脱北して自由を手に入れた文さんが日本人と結婚し、日本に住めることになったことを他人事ながら喜んでいるが、その陰には脱北に成功せず、射殺されたり、捕まって銃殺されてしまった大勢の命があることを忘れてはならない。
妓楼の楼主のような独裁者が倒される日が来ることを神に祈りたい。