一般財団法人日本刑事政策研究会と読売新聞社は、住み良い社会を作り上げるために刑事政策思想の普及が特に重要であるとの観点から、刑事政策に関する懸賞論文を募集している。
2024(令和6)年は、「社会復帰支援における地域の役割と在り方について」をテーマに入選作品が決まった。と1月25日の読売が伝えている。
優秀賞は愛知教育大教育学部3年山下真由さん(21)の「犯罪をした者が地域で居場所を得られるようにするための支援策」が選ばれた。
再犯を防ぐためには出所者や出院者が孤立しないよう、地域で居場所が得られるようにすることが重要だ。
国が出所者らの雇用を支援する制度では、約70%の人が1年以内で仕事を辞めてしまっており、短期間での離職率の高さが課題となっている。
地域に求められるのは、職場だけでなく、心地よい居場所である。
そこで、「家庭菜園プログラム」を提案する。
自治体が管理する土地で、出所者ら一人ひとりが小さな畑を借りて、地域住民と交流しながら、地域でコミュニティーを築くことを目的とする。
地域社会に途中から入ることについて、出所者らが居心地の悪さを感じることがないように、住民側の配慮も求められる。
以上が概要である。
犯罪を学問的にみて、加害者側のことを研究する犯罪学、別名刑事政策と被害者の立場を研究する被害者学と分けられる。
無論、両者を分けるというよりも、その立ち位置の話であってどちらも住みよい社会を作り上げるためには重要な学問である。
「闇バイト」などと嫌な言葉で集められた強盗が首都圏で頻発し、体感治安が極めて悪化している。
犯罪する側からみれば、カネがあるのは銀行とか一握りの富裕層だから、当然、狙う場所は決まってくるはずだが、そちらはガードが堅い。
池波正太郎『鬼平犯科帳』の火付盗賊改方長官鬼平こと長谷川平蔵の言葉を借りれば、急ぎ働きということになる住宅への押し込み強盗で殺人もいとわない凶悪事件が頻発するのは企図するものが安全地帯にいて実行犯にやらせるという構図が背景にある。
さて、犯罪もいろいろであるが、刑期を終え、出所者が再犯せずに社会でやり直せるには迎えてくれる家族など大事な人がいること。仕事があること。そして、居場所があることが専門家から指摘されている。
先年亡くなったビッグネームの俳優高倉健さんは同級生に頼まれ、刑務所を訪れ、「大事な人のことを思い出し、二度と戻ってこない」ように受刑者に呼び掛けていたが、存命中は、絶対口外しないようにと口止めしていたという。
大事な人を悲しませないことが犯罪の抑止になることを証明する話である。
優秀賞の山下さんの家庭菜園に目を向けた地域での居場所づくりの発想は素晴らしい。
有機無農薬での野菜作りを実践してきた自分は、家庭菜園での居場所づくりというよりも、後継者不足に悩む農業の担い手として、出所者は最適な存在であることを提言してきた。
居場所というよりも、職業にするということで、実現性は山下さんの提案の方が高そうだが、職業が大事だという点では、やる気さえあれば、自治体やJAなどの支援で農業は一つのモデルになるはずだ。
ここでも課題は人ということになる。
農業は身近にアドバイスできる人が必要だからだ。
家庭菜園から出発し、次第に農業へということも考えられなくはない。
とにかく、居場所というのも大事なことである。